ビジネスにおいて、資金繰りや決済の効率化は多くの企業にとって避けて通れない課題です。特に、売掛金や手形を管理する際には、その取り扱いやリスクが経営の成否を大きく左右することもあります。そこで注目されているのが「ファクタリング」と「電子記録債権」という2つの仕組みです。これらは、それぞれ異なる特徴を持ちながら、企業の資金繰りを改善し、取引を効率化するための有効な手段となります。この記事では、両者の違いや、それぞれがどのようなケースに適しているのかを詳しく解説します。
ファクタリングと電子記録債権について
ビジネスを進めるうえで、資金繰りや決済の効率化は避けて通れない課題です。特に、売掛金や手形を扱う企業にとっては、それらをどう管理し、活用していくかが経営の成否を分けることもあります。ここからは、その解決策として注目される「ファクタリング」と「電子記録債権」について見ていきましょう。
ファクタリング
ファクタリングは、企業が持つ売掛債権を早期に現金化するための仕組みです。例えば、取引先からの支払いが2カ月後だとしても、その売掛金をファクタリング会社に譲渡すれば、すぐに現金を手に入れられます。「支払いを待たずに資金を調達できる」というメリットから、多くの企業が資金繰りをスムーズにするために活用しています。
ファクタリングには2つの大きなタイプがあります。ひとつは「買取型」。こちらは売掛債権をそのまま売却し、譲渡代金を受け取る方法です。もうひとつは「保証型」。こちらは、取引先が倒産して売掛金が回収できない場合に、保証を受けられる方法です。いわば「万が一」に備える保険のような役割を果たします。
また、契約の形態によっても違いがあります。例えば、企業とファクタリング会社の間だけで契約を結ぶ「2者間ファクタリング」では、手続きがシンプルでスピーディーです。一方で、取引先も含めた「3者間ファクタリング」では、より透明性の高い取引が可能になります。それぞれの状況に応じて選択できるのが、この仕組みの魅力です。
電子記録債権
一方、電子記録債権は、手形や売掛債権をデジタル化した新しい形の決済手段です。通称「でんさい」とも呼ばれています。これまで、手形や売掛債権は紙ベースで管理されてきましたが、それにはさまざまな課題がありました。作成や管理に手間がかかるだけでなく、紛失や盗難のリスクも常に付きまといます。さらに、売掛債権では譲渡の際に債務者への通知が必要な場合もあり、手続きが複雑になることも少なくありませんでした。
電子記録債権は、こうした課題を一挙に解決する仕組みです。紙の手形とは異なり、すべてがオンラインで管理されるため、紛失の心配はありません。さらに、必要に応じて債権を分割して取引できるため、より柔軟な運用が可能です。例えば、大口取引の一部だけを他社に譲渡するといったことも簡単に行えます。また、債務者に通知せずに譲渡ができるため、取引のスピードと機密性が格段に向上しました。
ファクタリングと電子記録債権の違い
ファクタリングと電子記録債権割引は、どちらも売掛債権を売却して資金を調達する手段です。いずれも、売掛先からの支払いを待たずに現金を手に入れられるため、資金繰りの改善に役立つ便利な方法と言えます。しかし、仕組みや特徴には明確な違いがあります。ここでは、手数料、審査、利用の自由度、貸し倒れに対する責任、そして契約締結の手間という5つのポイントに絞って、それぞれの違いを解説します。
手数料
まず、手数料に関しては両者で大きな違いがあります。ファクタリングの場合、契約形態によって手数料が異なり、2者間ファクタリングでは8%から18%とやや高めですが、3者間ファクタリングでは2%から9%程度と、相対的に低く設定されています。一方で、電子記録債権割引では手数料の相場が1.5%から5.5%とさらに低く、一般的にはファクタリングよりもコストを抑えられるのが特徴です。特に、手数料を重視する企業にとっては、電子記録債権割引が魅力的な選択肢となるでしょう。
審査
審査の基準についても両者で大きな違いがあります。ファクタリングでは、自社の信用力よりも売掛先の経営状態が重視されます。そのため、自社の財務状況が厳しい場合でも、売掛先の信用力が高ければ審査を通過しやすいのが特徴です。一方、電子記録債権割引は金融機関が審査を行うため、基準が厳しく設定されています。銀行融資と同じ水準の信用審査が行われることから、自社の経営状態が悪化している場合には利用が難しい場合もあります。
利用の自由度
利用の自由度にも違いがあります。ファクタリングは売掛債権さえあれば基本的に利用できるため、その自由度の高さが特徴です。一方で、電子記録債権割引を利用するには、売掛先が電子記録債権に登録していることが前提となります。そのため、売掛先がこの仕組みを利用していない場合には、そもそも電子記録債権割引を活用できません。こうした点は、利用のしやすさに影響を与える要素となります。
貸し倒れに対する責任
貸し倒れリスクへの責任の所在についても重要な違いがあります。ファクタリングでは、ノンリコース契約(償還請求権がない契約)が主流です。この場合、売掛先が倒産して債権が回収できなくなったとしても、利用企業がその損失を負担する必要はありません。一方で、電子記録債権割引では、債権を譲渡した後で支払企業が決済できなかった場合、利用者がその責任を負う必要があります。こうした違いは、どちらを選ぶべきかを判断するうえで大きな要素となるでしょう。
利用方法・契約締結の手間
最後に、契約締結の手間についても見てみましょう。ファクタリングでは、取引ごとに契約を締結する必要があり、さらに契約内容の管理や保管にも手間がかかるため、頻繁に利用する場合は煩雑になりがちです。一方で、電子記録債権割引は、パソコンを使ったオンライン操作だけで取引が完了することが多く、ファクタリングに比べて手続きが簡単なケースが一般的です。このため、手間を減らしたい場合には電子記録債権の方が適していると言えます。
ファクタリングがおすすめのケース
企業の資金調達方法にはさまざまな選択肢がありますが、中でもファクタリングは、特定の状況において非常に有効な手段となることがあります。ここでは、ファクタリングが特におすすめのケースについて、わかりやすく解説します。
財務諸表の見栄えを悪くしたくない
資金調達を検討するとき、借入金が増えると財務諸表の見栄えが悪化してしまうという懸念を持つ企業も少なくありません。銀行融資を受けると負債として計上されるため、対外的な信用に影響が出る場合もあります。しかし、ファクタリングは売掛債権を売却して資金を得る仕組みであるため、借入金として扱われません。その結果、財務諸表に負債を増やさずに資金を確保できるのです。これは、財務の健全性を保ちながら資金調達をしたい企業にとって大きなメリットです。
売掛債権を持っている
取引先に対して売掛金が発生している場合、それを資金化できるのがファクタリングです。例えば、支払い条件が「取引の翌月末払い」となっている場合でも、その売掛金をファクタリング会社に譲渡することで、早期に現金を受け取れます。売掛金がある企業でならば、この仕組みを活用することで資金繰りを大幅に改善できるでしょう。
スピーディーに資金を調達したい
急な支払いが発生したり、新たなビジネスチャンスが訪れたりと、素早く資金が必要になる場面は意外と多いものです。ファクタリングは、銀行融資のような煩雑な手続きを必要とせず、売掛債権があれば迅速に資金を調達できるのが特徴です。審査もシンプルで、資金が手元に届くまでのスピード感は、特に急ぎの資金需要がある場合に心強い方法と言えるでしょう。
貸し倒れリスクを回避したい
売掛先の経営状態に不安がある場合、貸し倒れリスクを避ける手段としてもファクタリングは有効です。特に、ノンリコース契約(償還請求権なし)の場合は、売掛債権が回収できなくなった際の責任を自社が負う必要がありません。この仕組みにより、売掛先が万一支払い不能に陥った場合でも、リスクを最小限に抑えられます。
決算が赤字になっている
銀行融資や他の資金調達方法では、自社の経営状況が厳しいと審査が通りにくいことがあります。特に決算が赤字の場合、金融機関からの借入は難しいのが現実です。しかし、ファクタリングは自社の信用力ではなく、売掛先の信用力を重視するため、赤字決算や財務状況が悪化している企業でも利用できる可能性があります。この柔軟性は、ファクタリングの大きな魅力のひとつです。
電子記録債権がおすすめなケース
電子記録債権は、手形や売掛債権を電子化し、取引を効率化するための仕組みです。その特徴から、特定の企業にとって非常に有効な選択肢となる場合があります。ここでは、電子記録債権を利用するのに適したケースについて詳しく見ていきましょう。
事務負担を削減したい
紙の手形を使った取引では、作成や郵送、管理、そして印紙税の支払いなど、思った以上に手間がかかるものです。電子記録債権を導入すれば、これらの事務負担を大幅に軽減可能です。取引はすべてデータ上で管理され、郵送や紙の保管が不要になるため、業務の効率が格段に向上します。特に、手形や売掛債権を頻繁に扱う企業にとっては、大きな時短効果とコスト削減が期待できます。
取引先が電子記録債権を利用している
電子記録債権の導入を検討する際、まず確認すべきなのは取引先の利用状況です。もし大口の取引先がすでに電子記録債権を採用しているのであれば、自社も導入することで取引がよりスムーズになります。取引先と同じ仕組みを使うことで、やり取りの透明性や効率性が向上し、ビジネス上の信頼関係をさらに強化できます。また、同じプラットフォームを使うことで、双方の事務負担を軽減する効果も期待できるでしょう。取引先に合わせた導入は、長期的なビジネスの安定にもつながります。
手形の紛失や盗難などのリスクを軽減したい
紙の手形を扱う際の大きなリスクとして、紛失や盗難が挙げられます。これらの問題が起きると、再発行の手続きやトラブル解決に多くの時間と労力を費やさなければなりません。一方、電子記録債権ではすべてのデータがオンライン上で管理されるため、物理的な紛失や盗難のリスクがなくなります。さらに、記録機関によって厳重に管理されているため、取引の安全性が高く、不正利用の心配もほとんどありません。「安心して取引を進めたい」という企業にとって、電子記録債権は最適な選択肢です。
まとめ
ファクタリングと電子記録債権は、どちらも企業の資金繰りや決済をサポートする有力な手段です。ファクタリングは、売掛債権を活用して迅速な資金調達を実現する方法であり、柔軟性や貸し倒れリスクの回避が特徴です。一方、電子記録債権は、手形や売掛債権の電子化を通じて、事務負担の軽減や取引の安全性向上を図る仕組みです。どちらを選ぶべきかは、企業の状況やニーズによって異なります。それぞれのメリットをしっかりと理解し、自社に最適な方法を見つけることが、経営の安定と成長につながるでしょう。