2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業が見直しを迫られたのがサプライチェーンです。近年ではこのサプライチェーンを強化する動きが強まり、そのために利用され始めているのがサプライチェーンファイナンスという方法です。
この記事ではサプライチェーンファイナンスとはどのようなものかという点から、ファクタリングとの違いまでを分かりやすく解説していきます。
サプライチェーンファイナンスとは?
まずは、サプライチェーン及び、サプライチェーンファイナンスについて簡単に解説していきます。
サプライチェーンとは?
サプライチェーンとは、原材料を生産する現場から、消費者の手元に商品がわたるまでの一連の取引の流れをまとめたものを指します。
例えば、弁当店の店頭で販売される弁当について考えてみます。弁当を販売するためには、原材料となる農作物の収穫から、食品への加工、さらに弁当を納める容器の生産や小売店の店頭に運ぶまでの流通など、さまざまな業種が関わります。こうした原材料の生産から店頭販売までの流れの中に参加する企業全体をまとめてサプライチェーンと呼びます。
サプライチェーンのどこかひとつの企業が経営できなくなると、かかわるすべての企業経営に影響があり、弁当の販売ができなくなってしまうため、サプライチェーンにかかわる企業全体の資金繰りを安定させるのは、参加するすべての企業にとって重要なポイントとなるわけです。
サプライチェーン内の資金の流れを安定化させる
サプライチェーンファイナンスとは、1つの商品を提供するためにサプライチェーンに関わっているすべての企業が参加し、サプライチェーン内の資金がより安定して流れるためようにするための、資金繰りのシステムといえます。
サプライチェーンファイナンスを利用することで、サプライチェーンに関わるすべての企業の経営が安定し、最終的な消費者への商品・サービスの提供が滞りなくできるようになるというシステムです。
サプライチェーンファイナンスとファクタリングの違い
では、実際にサプライチェーンファイナンスとファクタリングにはどのような違いがあるかという点を解説していきましょう。
サプライチェーンファイナンスは、受注者である企業が利用するシステムです。上で紹介した弁当店の例で言えば、弁当店が利用するということになります。弁当店というのは、各取引先に商品を発注する発注企業であり、手にしているのは取引先に対する買掛金(支払うべき金銭)です。
一方ファクタリングという資金調達法は、売掛債権、つまり売掛金(受け取るべき金銭)を持つ受注企業が利用するサービスです。
つまり、買掛金を持つ発注企業が利用するのがサプライチェーンファイナンスであり、売掛金を持つ受注企業が利用するのがファクタリングであるという大きな違いがあります。
サプライチェーンファイナンスのメリット
サプライチェーンファイナンスとファクタリングは、利用する企業が決定的に違うという違いがありますが、サプライチェーンファイナンスを利用すると、どのようなメリットがあるのかを解説していきます。
発注企業のメリット
サプライチェーンファイナンスは、サービスを提供している金融機関に申し込みます。サプライチェーンファイナンスを構築できると、発注企業が持つ買掛金は、その金融機関が立て替えて支払ってくれますので、発注企業は金融機関に支払うタイミングを決め、余裕を持った支払いが可能となります。
例えば弁当店の例で考えてみましょう。最終的に弁当を販売する弁当店が、店まで弁当を運んできた流通業者には10日後に支払い、加工された食品を納品した業者には20日後に支払い、容器を納品したメーカーは30日後に支払いなどとなると、資金繰りが複雑になり、また場合によっては支払いが難しくなるタイミングも発生してしまいます。
こうした個別の支払いを、契約した金融機関が立て替えてくれるのがサプライチェーンファイナンスです。金融機関に対する立て替え金の支払いは、毎月末などといったように一括でまとめられますので、弁当店は経理面で非常にシンプルになり、経営がしやすくなるというメリットがあります。
受注企業のメリット
受注企業のメリットは、確実に、また希望すれば支払期日前に売掛金を受け取ることができるようになる点です。
一般的なサプライチェーンでは、最終的な発注企業が一次下請けに支払いを行い、その支払いを受け取ってから、二次下請けへの支払いが行われるというのが一般的です。つまり、サプライチェーンによっては、最終的に報酬を受け取る原材料の生産者等は、支払いサイトが非常に長くなるという問題がありました。サプライチェーンファイナンスを利用することで、こうした問題が発生することは少なくなり、また受注企業の事情次第では、入金日よりも早く売掛金の入金を受けることもできるというメリットがあります。
売掛金を早期に受け取れるという点では、ファクタリングと同じメリットがあるとも言えるでしょう。
サプライチェーンファイナンスのデメリット
サプライチェーンファイナンスを利用する場合、デメリットがないわけではありません。そんなデメリットにも触れておきましょう。
提供する金融機関が少ない
サプライチェーンファイナンスという考え方は比較的最近広まっている考え方です。特に2020年に発生した新型コロナウイルスの蔓延をきっかけに広まった新しい方法であるため、そもそもサプライチェーンファイナンスを提供する金融機関が少ないというデメリットがあります。
サプライチェーンファイナンスは、ファイナンスと言っても貸金契約ではありません。そのため法整備が整っていない部分もあり、サプライチェーンファイナンスの契約内容に関しては、提供している金融機関次第という特徴があります。提供している金融機関が少ないということは、契約条件を比較検討することが難しいということになり、あまり有利な条件で契約できない可能性があるというのが大きなデメリットです。
ファクタリングに関して言えば、近年ファクタリング会社は増加の傾向にあります。また、オンラインファクタリングに対応しているファクタリング会社も増えており、利用企業としてはさまざまな選択肢から、契約条件を比較検討することができるようになっています。
でんさいネットへの登録が必須
サプライチェーンファイナンスを利用する場合、サプライチェーンに参加するすべての企業が、でんさいネットへ登録している必要があります。サプライチェーンファイナンスは、電子債権による取引が対象であり、現状日本国内で電子債権を利用するためには、でんさいネットへの登録が不可欠だからです。
でんさいネットへの登録は、希望すれば誰でも登録できるものではありません。金融機関による審査が行われますので、サプライチェーンに参加している企業のうち、1つでも登録できない企業があれば、そもそも利用できないというのもデメリットといえます。
ファクタリングの場合、電子債権にかかわらず、すべての売掛債権が対象ですので、でんさいネットへの登録は不要で、より自由に利用できるという特徴があります。
サプライチェーンファイナンスとファクタリングはどちらがおすすめ?
受注企業から見ると、サプライチェーンファイナンスも、ファクタリングも、売掛金の早期現金化が可能という点では同じサービスです。またサプライチェーンファイナンスで、売掛金の早期現金化をする場合も、手数料の負担は受注企業となりますので、この点でも同様であるといえます。
ではどちらがおすすめかと言われると、そもそも契約する企業が違うために比較はできないという返答になります。
サプライチェーンファイナンスは、サプライチェーンを構築する発注企業が申し込むサービスです。受注企業としては、発注企業が利用したいと言った場合、可能な限り対応するしかありません。
一方、ファクタリングを申し込むのは、売掛金を持つ受注企業です。受注企業が自社の都合で、自社のタイミングで利用できるのがファクタリングであり、この点がサプライチェーンファイナンスとの最大の違いです。
サプライチェーンファイナンス・ファクタリングのまとめ
サプライチェーンファイナンスも、ファクタリングも、受注企業が売掛金を早期現金化できるという点では似たようなシステムです。しかし、この両者では、そもそも利用する目的が違いますし、利用する企業も違います。直接的にどちらがいいのかを比較するようなものではないというのが正しい答えとなります。
受注企業として、自社のタイミングで利用できるのはファクタリングですので、ファクタリングの方が利用しやすいということはいえるかもしれませ