ファクタリングは原則違法契約ではありません。利用者から売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、その対価として現金を受け取る「債権譲渡契約」ですから、法で認められた契約をするだけです。
しかし、実際にはファクタリング契約が刑事事件に発展するケースは存在します。そんな刑事事件のケースや、問われる罪、さらにその罪に対する法定刑に関して解説していきましょう。
ファクタリングで利用者が刑事事件を起こすケース
ファクタリング契約において、利用者が刑事事件を起こすケースは2つ考えられます。1つは刑事事件になると分かっていながら違法行為を起こすケース、もうひとつは刑事事件を起こすつもりはなかったものの、結果的に起こしてしまうケースです。
刑事事件になると分かっていて起こすケースとしては、そもそも存在しない請求書を偽造して申し込むケースや、二重譲渡になると分かっていて申し込むケースです。
そもそも売掛債権とは実物が物理的に存在しません。ファクタリングに申し込む際は、売掛債権を証明するために請求書などを提出しますが、この請求書はその気になれば偽造できるものです。請求書を偽造して、存在しない売掛債権で申し込むのは当然違法行為です。
二重譲渡とは、すでに他者に譲渡した売掛債権を、ほかの方にも譲渡するという行為になります。他者に譲渡したということは、その売掛債権の所有権は他者にあるということですので、これを勝手に譲渡するのは当然違法行為です。
二重譲渡に関しては、刑事事件を起こすつもりがなくても起こり得るため注意が必要です。さらに刑事事件を起こすつもりはなくても結果的に起こしてしまうケースとして、売掛金の送金ができないというケースもあります。
それぞれのケースにおいて問われる犯罪に関して次の項で解説していきます。
刑事事件を起こした利用者が問われる罪
ファクタリング契約において、使用者が起こす刑事事件は上記のようなケースであり、その際どのような罪に問われるかを解説していきましょう。
ちなみにここで紹介するすべての罪は、罰金刑ではなく懲役刑となりますので、起こした場合、刑務所に送られることになる犯罪ばかりです。
詐欺罪
請求書を偽造した場合、または二重譲渡をしてしまった場合、問われるのは詐欺罪です。どちらも存在しない債権で譲渡を申し込むわけですから立派な詐欺ということになります。
二重譲渡と気づかずに申し込んでしまった場合でも、詐欺罪に問われる可能性があります。刑事事件となる場合に重要なのが「犯罪の故意」の有無です。つまり、犯罪と知っていて犯した罪が刑事事件となり刑法で罰せられるということになります。
二重譲渡と気づかず申し込んだ場合でも、「二重譲渡は犯罪である」ということを理解している場合は、例え故意ではなくとも故意があったとみなされる可能性が否定できません。犯罪の故意とは、どのような犯罪を起こしているのかを理解していなくとも、「ひょっとしたら犯罪かもしれない」と分かっていれば故意があったと認定されるからです。
ちなみに詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役となります。
私文書偽造罪・公文書偽造罪
請求書を偽造した場合、取引先が民間企業であれば私文書偽造罪、公的機関である場合は公文書偽造罪となります。この罪は詐欺罪と合わせて問われることが多いため、詐欺罪を含めより重い刑が下される可能性があります。
それぞれの法定刑は以下の通りです。
・私文書偽造罪 3ヶ月以上5年以下の懲役刑
・公文書偽造罪 1年以上10年以下の懲役刑
業務上横領
2社間ファクタリングでは、売掛債権の所有権はファクタリング会社に譲渡されるものの、売掛債権の契約内容は変更されません。そのため、売掛金は利用者の口座に一度振り込まれ、利用者の手でファクタリング会社に送金される形になります。
契約としては、ファクタリング会社に代わって利用者が債権の取り立てを代行する形となり、ファクタリング契約の際は、債権譲渡契約とともに、業務委託契約を結ぶのが一般的です。
この取引先から入金された売掛金をファクタリング会社に送金しない場合は、業務上横領罪が適用されます。
業務上横領罪の法定刑は詐欺罪同様10年以下の懲役となっていますのでご注意ください。
ファクタリング会社が刑事事件を起こすケース
ファクタリング契約においては、ファクタリング会社が刑事事件を起こす可能性があります。今度はファクタリング会社が刑事事件を起こすケースを考えていきましょう。
貸金業法違反
ファクタリング会社が起こす刑事事件で問われる罪の多くは、貸金業法違反です。貸金契約を結ぶことができるのは、貸金業者登録をしている者だけですので、貸金業者登録をしていないのに、貸金契約を結ぶと貸金業法違反となります。
ファクタリングは原則債権譲渡契約ですが、条件や取り扱う債権によっては貸金契約に見なされるケースがあります。
契約条件によって貸金契約となるケースが、償還請求権付の契約です。償還請求権とは、売掛金が未払いとなった場合、取引先に代わって利用者が売掛金を支払う義務を負う契約です。過去の判例で、この償還請求権付の契約は、ファクタリング契約ではなく、売掛債権を担保とした貸金契約であるとされています。
償還請求権付の契約を、貸金業者登録をしていない業者が行うのは貸金業法違反です。また、償還請求権付の契約をしたファクタリング業者が、貸金業者登録をしていても、手数料(この場合は金利となる)が法定金利を超えていれば、同じく貸金業法違反です。
取り扱う債権によって刑事事件となるのが、給与債権を利用した給与ファクタリングです。給与ファクタリングに関しても、ファクタリングではなく貸金契約であるという判例があり、貸金業法違反となります。
貸金業法違反の法定刑は2パターンあり、「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金または併科」もしくは「10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金または併科」です。
ファクタリングで刑事事件に発展させないために
ファクタリング契約において、間違っても刑事事件などに巻き込まれたくないという方は、刑事事件に発展しないような対策が必要です。そのポイントに関して解説していきましょう。
売掛債権は厳重に保管する
ファクタリングで刑事事件を起こすつもりがなくても、起こしてしまう可能性があるとすれば、債権の二重譲渡です。二重譲渡を防ぐためには、まずは債権の管理をしっかりと行うこと、そして利用するファクタリング会社は1社に絞り込むのがおすすめです。
誤って譲渡済みの債権で申し込もうとした場合でも、契約するファクタリング会社が1社であれば、高い確率で契約前にミスを指摘してもらえるでしょう。
悪徳業者に関わらない
ファクタリング会社の刑事事件に巻き込まれないためには、悪徳業者に近づかないのがベストです。ファクタリング会社は比較的開業しやすく、悪徳業者が存在するのは事実です。こうした悪徳業者は、ファクタリングと見せかけた高利の貸金契約を結ぶなど、悪質な契約を結びますので、契約するファクタリング会社はしっかりと見極める必要があります。
売掛金入金のタイミングの資金繰りを想定する
ファクタリングは売掛金を入金期日前に現金化する資金調達法です。つまり売掛金の入金日には、入金されるはずの売掛金が受け取れないということでもあります。
売掛金の入金日周辺で、資金繰りが厳しい状況だと、売掛金をファクタリング会社に送金できなくなってしまうケースも考えられます。ファクタリングを利用する場合は、ある程度長期的な視野でしっかり資金繰りを確認することが重要です。
ファクタリング・刑事事件のまとめ
ファクタリング契約に関する刑事事件は少なくありませんが、これはファクタリングが違法契約であるわけではなく、ファクタリングの仕組みを悪用しようとする犯罪者が存在するせいです。
ファクタリング事態は合法な契約ですので安心して利用しましょう。ただし、意図せず刑事事件を起こしてしまう可能性も否定できませんので、計画的な利用が推奨されます。