ファクタリングと聞くと、売掛債権を譲渡して、売掛金を早期現金化する方法というイメージが強いかと思います。
つまり利用できるのは売掛債権を持っている企業のみで、債権を持たない企業は使えないというイメージがあることでしょう。
ファクタリングが利用できない業種といえば、個人商店や飲食店など、サービスや商品を提供してその場で支払いを受ける業種となりますが、病院も同じくファクタリングを利用できない業種と考えられる方も多いかと思います。
しかし、病院だからこそ利用できるファクタリングがあり、それを医療ファクタリングと呼びます。
この記事では医療ファクタリングの構造や基本的な流れ、特徴などを紹介していきます。
病院が利用できる医療ファクタリングとは?
ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、売掛金の早期現金化を図る資金調達法です。
では病院はどんな債権を譲渡するのでしょうか。
病院が手にする診療報酬は、多くの場合保険が適用されます。
国民健康保険でも社会健康保険でも、本人負担額は基本3割であり、残り7割は「社会保険診療報酬支払基金(以下:社保)」や「国民健康保険団体連合会(以下:国保)」が負担することになります。
本人負担部分に関しては、診療が終わり次第支払われますので、債権とはなりません。
しかしこの社保や国保が負担する7割の部分に関しては、1ヶ月分をまとめて社保や国保に請求し、支払いはその2ヶ月後となります。つまり債権となるわけです。
1月分の診療報酬を社保や国保に請求するのは2月10日まで。この請求の支払いが行われるのが3月25日という流れです。つまり1月に発生した診療報酬債権が支払われるのが3月末ということになります。
病院がファクタリングで利用できるのがこの診療報酬債権です。
一般的に「医療ファクタリング」と呼ばれるファクタリングには、この診療報酬ファクタリングのほかに、介護報酬ファクタリング、調剤報酬ファクタリングがありますが、いずれもシステムや売掛先(社保・国保)は同じですので、診療報酬債権で解説していきます。
診療報酬ファクタリングの流れ
病院が利用できる診療報酬ファクタリングには、通常の債権買取型のファクタリングとは違い、独特な部分がいくつかありますので、その流れを紹介していきます。
一般的な債権買取型のファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングがあります。
特に利用者が多いのは、取引先に知られることなく利用できる2社間ファクタリングですが、診療報酬ファクタリングは3社間ファクタリングのみとなります。
多くの企業が2社間ファクタリングを利用するのは、取引先にファクタリングの利用を知られたくないという理由が大きいでしょう。
そんな診療報酬ファクタリングの流れを見ていきましょう。
ファクタリング会社に診療報酬債権を持ち込む
まずは病院が診療報酬債権をファクタリング会社に持ち込みます。
この部分は一般的なファクタリングと同様です。そして審査を受けて、条件に問題がなければ契約を結ぶことになります。
この審査にはまず落ちることがないというのが診療報酬ファクタリングの大きな特徴です。何しろ取引先が社保や国保ですから、支払いの停滞や倒産といったリスクはほぼ0です。
ファクタリング会社としても安心して契約できるということになり、審査もまず間違いなく通過するでしょう。
病院から売掛先にファクタリングの利用を通知する
病院とファクタリング会社の間で契約が締結した後、病院から社保や国保にファクタリングを利用する旨を通知します。
社保や国保においてもファクタリングを利用するのは珍しいことではないので、スムーズに話は進むでしょう。
ファクタリング会社と売掛先でファクタリング契約を結ぶ
病院からの連絡後、ファクタリング会社から社保・国保に対して契約を結ぶ旨の連絡がいき、両者の間で契約が結ばれます。これで3社間ファクタリングの契約が完了します。
診療報酬の一部が現金化され病院に入金される
一般的なファクタリング契約の場合、契約締結後に売掛金から手数料を差し引かれた金額が入金されますが、診療報酬ファクタリングの場合、額面金額の一部が先に入金されます。
これは、病院が請求した金額の満額が社保・国保から支払われるとは限らないという、診療報酬ファクタリングならではの特徴によるでしょう。一般的には8割程度が振り込まれるケースが多いようです。
売掛先からファクタリング会社に診療報酬が支払われる
社保や国保は、病院からの請求を精査し、問題なく保険に該当する診療報酬を支払います。
ファクタリングを利用した場合、診療報酬債権はファクタリング会社に譲渡されているため、ファクタリング会社に振り込まれるということになります。
ファクタリング会社から残額分が病院に支払われる
ファクタリング会社は入金された診療報酬から差額分を病院に追加で支払います。
仮に診療報酬債権の額面金額が1,000万円、先に支払われるのが8割、手数料率が1%、諸経費が5万円、実際に支払われる診療報酬が900万円だった場合で現金の動きを確認しておきましょう。
契約締結後、先に病院に支払われる診療報酬は、請求金額の8割から手数料と諸経費を差し引いた金額となります。
800万円から手数料の8万円と諸経費の5万円を差し引いた787万円が先に支払われます。
診療報酬が確定し、900万円がファクタリング会社に支払われた後に、ファクタリング会社は、先に支払った金額との差額100万円から、手数料を差し引いた99万円を病院に再度入金します。
つまり、1,000万円で請求した診療報酬に対して、病院が受け取ることができる金額の合計は886万円であり、先に受け取ることができる金額が787万円だったということになります。
実際には900万円の報酬でしたので、手数料等で14万円支払い、かつ787万円に関しては社保や国保からの入金日よりも早く手にできたということになります。
病院が診療報酬ファクタリングを利用するメリット
病院にとって診療報酬ファクタリングは非常にメリットの大きい資金調達法ということがわかります。
例えば医療機器が故障して修理代金が必要になった、急に買い替える必要ができた場合など、急に現金が必要になったときに非常に有効です。
診療報酬ファクタリングは債権譲渡契約であり借入金とはならないため、病院の信用情報に影響がなく、また素早く現金を調達できるということになります。
また診療報酬ファクタリングのメリットは、まず審査に落ちることがなく、さらに好条件で契約できる可能性が高いという点です。
ファクタリング契約における手数料などの条件は、売掛金の回収リスクの大きさによって決まります。リスクが大きい契約ほど手数料が高かったり、条件が厳しくなったりしますし、最悪の場合は審査に通らないということになるわけです。
しかし診療報酬ファクタリングの場合、未回収のリスクはほぼ0です。そのため審査に落ちることはまずないですし、手数料などもかなり安いレベルでの契約ができるでしょう。
一般的に3社間ファクタリングの手数料率相場は1~9%と言われていますが、この相場の中でも最低レベルでの契約が可能です。
病院が診療報酬ファクタリングを利用するデメリット
病院が利用できる診療報酬ファクタリングに関しては、そこまで大きなデメリットはありません。それでもデメリットを挙げるとすれば、依存性の高さと現金化スピードの部分でしょう。
診療報酬ファクタリングは3社間ファクタリングで契約することになります。上の契約の流れでも説明した通り、病院とファクタリング会社が契約したのちに、ファクタリング会社と社保・国保が契約して初めて入金となります。
一般的なファクタリングでは、申し込み即日現金化も珍しくなく、即日ではなくとも2~3日以内には現金を手にすることができる契約が中心です。
しかし診療報酬ファクタリングの場合、申し込みから入金まで1週間程度はかかることが多く、入金スピードという点では多少デメリットがあると考えることができます。
もうひとつは依存性の高さです。
一般的な企業の場合、複数の売掛債権の中から1つをファクタリングに出すというのが一般的です。しかし病院の場合、そこまで数多くの債権を持っているわけではありません。
病院の収入の多くは診療報酬ということになるため、その診療報酬をファクタリングしてしまうと、実際にその報酬が入金されるタイミングでの収入が大きく減ってしまう可能性があります。
収入が少なくなったため、再度ファクタリングを利用して穴埋めするということが続くと、結果的にファクタリングに依存する形になります。
診療報酬ファクタリングの場合でも、安いとはいえ手数料の支払いは必須となります。手数料の分、診療報酬は減っていくことになり、これが続くと損失はどんどん大きくなっていきます。
病院は債権を持っている数が少ないケースが多いため、ファクタリングを利用する場合は計画的に利用する必要があります。
ファクタリングと病院についてのまとめ
病院もファクタリングの利用は可能です。
社保や国保から支払われる診療報酬の債権をファクタリング会社に譲渡することで、早期の現金化をすることができます。
病院が申し込む診療報酬ファクタリングは、審査の通過率が高く、また安い手数料で利用できますので、非常に有効な資金調達法となります。
一方依存性の高い方法でもありますので、利用する場合は計画的に利用するようにしましょう。