ファクタリングは債権譲渡契約であり、貸金契約ではありません。
ファクタリングによって手にした現金は借り入れ金ではありませんので、会社の財務状況に大きな影響を与えることはありません。
そこでこの記事では、ファクタリングを利用した場合バランスシートはどうなるのか?またその結果どんなメリットがあるのかなどに関して解説していきたいと思います。
ファクタリングがバランスシートに与える好影響
ファクタリングとは、売掛債権を譲渡し、売掛金の早期現金化を図る資金調達法です。
同じく資金調達法である金融機関などからの資金融資との大きな違いは、ファクタリングは借入金とはならないという点でしょう。
借入金とはならないという特徴は、バランスシートを見ればすぐに分かります。
そこで、同じ金額を借り入れた場合とファクタリングした場合のバランスシートの違いを紹介しましょう。
借入金との違いを解説
まずは仮に以下のようなバランスシートがあったとします。
【資金調達前】
<貸方>
普通預金 1,000万円
売掛金 300万円
貸方合計 1,300万円
<借方>
借入金 200万円
資本金 1,100万円(うち利益300万円)
貸方合計 1,300万円
このバランスシートから、売掛金の300万円をファクタリングし、手数料が10%だった場合、バランスシートは以下のように変わります。
【ファクタリング後】
<貸方>
普通預金 1,270万円
貸方合計 1,270万円
<借方>
借入金 200万円
資本金 1,070万円(うち利益270万円)
貸方合計 1,270万円
同じバランスシートで、300万円を金融機関からの融資で賄った場合のバランスシートの変化を紹介します。
【資金融資後】
<貸方>
普通預金 1,300万円
売掛金 300万円
貸方合計 1,600万円
<借方>
借入金 500万円
資本金 1,100万円(うち利益300万円)
貸方合計 1,300万円
資金融資を受けた後、仮に借り入れた300万円を返済した場合、貸方合計は1,300万円となり、資本金は1,100万円のままということになります。つまり、ファクタリングを利用した方が資本金が小さくなり、バランスシートはスリム化するということになります。
ファクタリング利用によるオフバランス化のメリット
オフバランス化とは、バランスシートに記載されない取引のこと。
ファクタリングは借入金ではないため、バランスシートの借入金が増えることはありません。これがオフバランス化です。
では、ファクタリングによってオフバランス化することでどんなメリットがあるのかを紹介していきましょう。
バランスシートがスリム化できる
まずはバランスシートのスリム化というメリットが挙げられます。
バランスシートがスリム化するということは、経営状態が安定している、健全な経営ができているという印象を対外的に与えることができますし、社内的にも経理の管理がしやすくなるというメリットが考えられます。
バランスシートは、資金融資の際はもちろん、新規の取引先なども確認する会社の重要な経理情報です。このバランスシートがスリム化されることで、取引先から信頼されるなど、大きなメリットが考えられます。
ROAの改善が可能
ROAとは「総資産利益率」のこと。
総資産利益率とはどれだけ効率的に経営できているかを見る指標です。つまり少ない資産で大きな利益を出している会社の方が効率的な経営ができていると判断され、社外的な評価が高まることになります。
ROAの計算式は以下の通りです。
【ROA計算式】
当期純利益÷総資産×100
算出される数値が大きいほど経営は効率的とされます。
当期純利益が同じであれば総資産は小さい方がROAは大きくなるため、ファクタリングによりオフバランス化ができれば、総資産は小さくなるため、ROAは改善されるという事に繋がります。
健全経営に見えるため融資審査に通りやすくなる
ファクタリングを利用することでバランスシートがスリム化され、ROAが改善されるということは、その企業はより効率的に、また健全な経営ができていると見られることになります。
こうした評価は、取引先からの評価アップはもちろん、金融機関などに融資を申し込んだ際の審査でも有利に働くことになります。
つまり、ファクタリングを有効活用することで、同じ資金調達法である資金融資を受けやすくなるという大きなメリットが考えられるわけです。
ファクタリングにはデメリットも
ここまでファクタリングとバランスシートの関係について紹介してきました。
特にバランスシートという観点から見れば、ファクタリングという資金調達法は非常に優秀な方法であり、多くの企業がもっと積極的に活用すべき方法ということになります。
とはいえ、ファクタリングにもデメリットは存在します。しかもこのデメリットに気づいていないと、中長期的には大きなダメージを負うことにもなりかねませんので、このデメリットはしっかりと把握しておきましょう。
手数料は純粋に損失となる
ファクタリングを利用する場合、手数料を支払う必要があります。
仮に500万円の売掛債権を10%の手数料でファクタリングした場合を考えましょう。
この場合手にできる売掛金は450万円ということになります。
会社としては500万円の仕事をし、500万円分の商品やサービスを納品したのに、手にできる現金が450万円ということは、単純に50万円値引きして提供したということになります。つまり会社の損失ということです。
ファクタリングは審査も緩く、現金化スピードが速いため、比較的気軽に利用できるという特徴があります。
しかしその特徴に流され、恒常的にファクタリングを利用してしまうと、そのたびに一定の損失(手数料)が発生し続けることになります。
損失額が大きくなれば、会社の経営はより厳しくなり、経営が厳しくなればまたファクタリングを利用するという悪循環に陥る可能性もあります。
一時的な現金不足を乗り切るためにファクタリングを利用するというのは非常に賢い利用方法ですが、恒常的に利用する、ファクタリングに依存するという状況になってしまうと、会社経営としては健全な形ではなくなってしまいます。
この点に十分気を付けて、ファクタリングを上手に活用するようにしましょう。
バランスシートに見るファクタリングの有効活用法
ファクタリングは基本的にはおすすめの資金調達法です。
とはいえ上記の通り、過剰に利用する、依存するという状況になってしまうのは避けたいところです。
では、ファクタリングはどのように利用するのがベストか。
バランスシートの観点から有効的な活用方法に関して考えてみましょう。
急場の資金調達にファクタリングを利用
ファクタリングを利用することでバランスシートがスリム化され、ROAが改善されるというのは大きなメリットです。
そんなファクタリングは、急に現金が必要になった場合のみ利用するというのがおすすめの方法となります。
原油代が急に高騰した、円安により原材料費が上がった、天候不順のために原材料費が高くなった、設備が故障し急に買い替える必要が生じたなどなど。
企業を経営していると急に現金が必要になるシーンは少なくないかと思います。そんな中でも特に後の運転資金に影響が出そうな時などに、ファクタリングを積極的に利用するというのがおすすめの方法です。
こうした一時的な資金確保にファクタリングは有効な資金調達法と言えるでしょう。
事業拡大資金などは資金融資で
会社として新たな事業に乗り出す、新たな人材を確保する、新たな拠点を作るなど、会社を大きく成長させるタイミングでは多くの資金が必要となります。
こうしたタイミングでは、金融機関からの資金融資を頼りにするのがおすすめです。
ファクタリングは売掛金を現金化する資金調達法ですので、売掛金以上の金額を用意することはできません。
売掛金の範囲以上に大きな事業資金などは、金融機関からの融資に頼りましょう。
通常時の資金不足をファクタリングで補っていれば、自然とバランスシートもスリム化されており、資金融資審査にも通りやすい状態ができているかと思います。この優位性を活かし、資金の借り入れを申し込みましょう。
通常時の一時的な資金不足のたびに金融機関から借り入れを繰り返していると、こうした大きな資金が必要なタイミングで借り入れるのが難しくなります。そのために普段はファクタリングの利用が推奨されるというわけです。
一時的な資金不足はファクタリングで、大きな資金が必要なタイミングでは金融機関からの借り入れで対応することで、会社の経営も安定するでしょう。
ファクタリングとバランスシートのまとめ
ファクタリングという資金調達法は、売掛債権を譲渡することで売掛金の早期現金化を叶えるものです。
契約前の審査が緩いこともあり、比較的利用しやすい資金調達法といえます。
また、バランスシートという観点から見ても、バランスシートのスリム化ができ、ROAの改善、自己資本比率の改善など、非常に優秀な資金調達法といえます。
そんなファクタリングですが、利用には一定の手数料が必要となるため、あまり依存しすぎるのはおすすめできません。
一時的にどうしても現金が足りない時などに有効活用できる資金調達法であり、大きな金額を準備するにはあまり向いていない方法となります。
会社を経営している方は、どんな事情で現金不足になっているかを考え、一時的にしのげれば解決できる問題の場合はファクタリングを、そうではなく中長期的に厳しいという場合は、資金融資を利用するなど、上手に使い分けていきましょう。